出口戦略は、使い始める前に考える
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この記事でわかること
- 積み立ては自動化できても、使い始める判断まで自動化されているわけではない
- 人は、得の場面と損の場面で、リスクの取り方が変わりやすい
- 同じ下落でも、収入がある時期と、生活費を取り崩す時期では選べる行動が違う
積み立てを始める手順は、この数年でかなり整いました。商品を選び、毎月の金額を決め、相場を見ずに続ける。ここまでは、一度設定すれば手が離れます。資産形成の難しさは、その先に残っています。いつか、そのお金を使う日が来ます。使う日に、いつ売るか、いくら売るか、何から売るかは、設定の画面が決めてはくれません。
出口戦略とは、その日のための事前の問いです。完璧な売却日を当てる技術ではありません。使い始める自分を、いまの自分とは別に想像しておくことです。
積み立ては、入口でしかない
入口で多い行動は、名前が知られた商品を選び、自動で買い、売らずに持つ、です。それ自体を、ここで否定はしません。問題は、入口の単純さを、出口まで延長してしまうことです。
使い始めると、問いは増えます。退職の前に、一部を値段の振れが小さいものへ移すか。毎月いくらなら、生活が持つか。市場が下がった月も、同じ額を売り続けるか。現金が減ってきたら、どの資産から出すか。残す人がいるなら、何を残すか。税金の扱いはどうなるか。
これらは、性格の問題に見えて、実は日程の問題です。使う日が遠いあいだは、問いは抽象的です。使う日が近いと、同じ問いが生活費の不足として現れます。積み立ての自動化は、この判断まで自動化していません。
「みんなが同じ入口を選んでいる」は、出口の正解にはなりません。周りの人は、使う時期も、公的な年金や退職金の有無も、すでに持っている現金も違います。入口の人気と、自分の出口は、別の紙に書いたほうが混ざりません。
得の場面と、損の場面で、人の選び方は変わる
出口で合理的でいるのは、思っているより難しいです。行動経済学のプロスペクト理論は、人は得をする場面と、損をする場面で、リスクの取り方が変わりやすい、と説明しました。1979年の論文で示された枠組みで、その後の研究でも参照され続けています。
教え方の一例は、こうです。利益が目の前にあるとき、人は、半々の確率で大きく受け取るより、決まった額を受け取るほうへ寄りやすい。損失が目の前にあるとき、人は、その損失を帳消しにできるかもしれない賭けのほうへ寄りやすい。同じ金額の差でも、得として見るか、損として見るかで、選ぶ手が変わります。
出口に当てはめると、含み益を確定するのが惜しくなり、含み損は「戻るまで待ちたい」となりやすい、ということです。惜しい、待ちたい、は自然な感覚です。その感覚と、来月の生活費を払う必要は、別の話です。感覚のまま売ったり、持ち続けたりすると、事前に決めたルールと違う行動になります。
この理論は、人が弱い、という非難ではありません。出口のルールを、下落の当日に発明しないための警告です。ルールの例は、「生活費の何か月分かは、値段の振れが小さいところに置いておく」「取り崩す額は、年の初めに決めて、月々の見出しでは変えない」といった形です。金額の割合は、ここでは指定しません。家計で違います。
同じ下落でも、立場が違えば選択が変わる
いま「下がっても売らない」と思えても、取り崩しているときの自分は、別人かもしれません。給与があり、使う時期まで時間があり、毎月の積み立てを続けられる人と、給与が終わり、残高から生活費を出す人では、同じ下落への対応が違います。
前者は、売らずに待つことが、今月の生活を直撃しないことがあります。下がったところを、これまで通り買い続けることも、生活の範囲では可能です。後者は、売らないと生活費が足りない月があります。下がった資産を売るか、支出を減らすか、働く期間を延ばすか。選択肢の中身が違います。
年齢で人を二種類に分ける、という話ではありません。収入が続くか、使う日まで何年あるか、現金が何か月分あるか、です。三十代でも、三年後に全額使う予定なら、時間の余裕は短いです。六十代でも、当面の生活費が別に確保されていれば、待ち方は変わります。
歴史上、株式の市場には大きく下落した時期が何度かあります。回数や割合を、この記事では確定値として書きません。切り取る期間で数が変わるからです。残る教訓は、下落は「どこかで一度」ではなく、長い人生の中で複数回到達しうる、ということです。一度も経験しない前提で出口を書かないほうが、計画は壊れにくいです。
下落の当日に自分を想像する問いは、具体的なほうが効きます。残高の表示が、見慣れた数字より明らかに減っている。その月の生活費を、どこから出すか。売る、持つ、支出を減らす、のどれを先にすると、事前に決めていたか。答えが「そのとき考える」だけなら、出口はまだ設計されていません。
自分で決める範囲と、人に聞く範囲
出口に、唯一の正解の商品はありません。自分で割合を決め、定期的に見直し、下落のときにルールを守れる人は、低コストで市場全体を持つ形を、最後まで自分で運ぶことができます。それが難しい部分がある人は、判断の一部を人に聞く、という選択肢があります。
聞いたあとも、何を任せているかは自分で分かっている必要があります。任せたから振れがなくなる、わけではありません。報告を読まず、名前だけを預けている状態は、設計ではなく、丸投げです。
勉強会は、この判断を代わりに行う場ではありません。考え方の順番を扱う場です。終わったあと、希望した人だけが個別の相談に進みます。進まない人が、劣っているわけでもありません。
時間、買う時期、値動きの違いを先に分けておきたい人は、長期・積立・分散に戻ってください。下落の背景を金利から見たい人は、株式と金利です。広く知られた指数を入口に選んだ人の注意点は、S&P500とオルカンの注意点にあります。入口の選択は、出口の問いを消しません。
ルールは、下落の前に紙へ書く
出口のルールは、短い文で足ります。いつから使い始めるか。生活費のうち、どの部分を残高から出すか。下がった月に、出す額を変えるか、変えないか。現金が何か月分を下回ったら、何を優先して補うか。残す人がいるなら、その分を取り崩しの計算から外すか。
この文は、完璧である必要はありません。書いた日と、使い始める日で、収入も物価も家族の形も変わります。変わること自体は失敗ではありません。失敗になりやすいのは、書いたものが無く、その日の見出しだけで手を動かすことです。感覚は、その日の残高表示に引っ張られます。紙に残した文は、引っ張られたあとに戻る場所になります。
取り崩しの形も、一つではありません。決めた額を、決めた間隔で出す。使う分だけを、その都度出す。ある水準まで値段が戻ってから出す。どれが正しいかは、家計で違います。決めた額を間隔を置いて出す形は、売る日を自分で当てなくて済みます。その代わり、下がった月にも出すので、数量としては多く手放す月が出ます。戻ってから出す形は、下がった月の売却を避けられます。その代わり、戻るまで現金が足りない月を、別の手段で埋める必要があります。
どちらを選んでも、選んだ理由を一文で残しておくと、当日に感覚へ引き戻されにくくなります。「戻るまで待つ」を選ぶなら、待っているあいだの生活費を、どの現金で払うかまで書いて初めてルールです。生活費の欄が空欄のままなら、待つ、は方針ではなく希望です。
商品の前に、続けられる形
出口で大事なのは、一番増える商品を探すことではありません。使い始める自分でも続けられる形を、いま書いておくことです。いつ使うか。何か月分の現金を別に置くか。下がった月に、売る額を変えるか、変えないか。残す人がいるなら、そのことを出口の問いに含めるか。
正解の商品リストは、この記事にはありません。リストが欲しくなったときほど、使う日と、下落の月の行動を先に紙へ戻してください。入口は、設定すれば手が離れます。出口は、手放したままでは終わりません。
出典
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の勧誘や推奨を目的としたものではありません。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。